エゴイスト   〜リョーマside〜







どうしよう…

俺の頭は、それしか考えられなかった

だって…聞こえてしまった

不二先輩と手塚部長の会話

あの二人には何かがあったんだ…

……ただその事だけが、脳裏を駆け巡った……





「…手塚部長、不二先輩との間に何があったんだろう…」


いまだにハッキリと物事を考えられない頭が、ただそれだけを知らせた。

二人には、ただの友人とは言えない…何らかの事があったこと。


「部長…には訊けないか…」


あの様子では、訊く事は困難に思えた。

きっと…不二先輩の話だって嫌がるだろう。


「部長の事は…副部長が知ってるかな…」


不二先輩の友人、英二先輩に訊くという選択肢もあったけど…それは危険だと感じた。

あの二人は結束が固そうに見える。

英二先輩に訊いたら…その事が不二先輩の耳にも入るだろう…。


「兎に角…もう保健室には居れないな」


保健の先生が戻って来たら面倒だと思った。

その前に出て行ってしまうのが楽だった。

かといって授業に参加する気にもならないから…中庭をプラプラと歩いた。


「あ〜、おっチビ〜!何々?お前もサボリ〜??」

「英二…先輩」


何で会いたくない時に限って、会いたくない人に会っちゃうんだろう。

不二先輩の次に会いたくなかった人が、中庭で寝転がって居た。

仕方なく、英二先輩の隣に腰掛けた。


「にゃーんか暗い顔してる〜。あ、そういやおチビ…朝倒れたんだって?」

「…ッス」

「もー大丈夫にゃの?」

「平気ッス」


英二先輩はそっか〜って呟いたきり、話さなくなってしまった。

何て言ったっけ、この人のこと。

……あぁ、そうだ。『気分屋』だった。


「………おチビさ、何か俺に訊きたい事あるっしょ?」

「え…」

「いいよ、大体判る。不二の事だろ?」


何で見抜いてしまうんだろう。

その人の名前、聞きたくないのに…。


「そっか…今度はおチビにゃんだ………」

「…何が…ッスか…」


嫌な予感がして、声を絞り出した。

自分の声とは思えない程に、掠れた声だった。


「ん〜…、俺の口からは言えないにゃ。不二か…手塚が話さない限りは…」

「そうっすか…」


正直な話、安心した。

第三者である英二先輩の口から…二人の事を聞きたくなかった。


「でもね、おチビ…。皆、アイツのこと誤解するけど…ホントは悪い奴じゃないんだ」

「……………」


そんなの信じられる訳ない。

俺にあんなことした人が、悪くないって…?


「確かに性格は捻じ曲がってるし、考え方は捻くれてるけど………」


聞きたくない、あの人を弁護するような事は。


「誰よりも愛情深いよ…。それが度を越しちゃうだけで…ね」


そんなの嘘。愛情なんて掛け離れた言葉だ。


「それに…愛してもらいたいんだ。だた…人に」

「それは誰でも良いって事ッスよね?!」


黙って居られなくて、怒鳴るように言い放ってしまった。

英二先輩は仕方なさそうに肩を竦めた後、苦笑するように微笑んだ。


「まぁ、信じらんないのは仕方ないにゃ。…でも、これだけは憶えててね」


『不二は、同性愛者じゃないよ』


「これはホントのホントに。ただ、欲しいものに見境がないだけだよ」


俺が呆然とすると、英二先輩は立ち上がった。


「俺、戻るね。おチビはさ…不二の事、きっと誤解してる」


そう言って、去って行った。

何だよ、それ。

不二先輩が同性愛者じゃない?じゃあなんであんな事を?

欲しいものに見境がないって…一体何の事を言ってるの?

判らない…。

もっと、詳しく言って欲しかった。


「不二先輩を…誤解してる…?」


何を言ってるんだ、英二先輩は…。

俺が見た、あの不二先輩が全てじゃない…か。

他に、何を誤解するって言うんだよ………。


「訳、分かんない…」





想いと言葉が交わる事無く、俺の中で混合する

何を信じる訳でもないのに…

ただ現実を突きつけられ…

手塚部長、不二先輩、英二先輩の台詞が

心の中で渦巻いた。

何度も…何度も